Better Days Ahead / Pat Metheny分析

今回はPat Methenyの名曲『Better Days Ahead』を分析してみたい。

1989年発表の『Letter from Hom』に収録されている作品。

このアルバムはグラミー賞を受賞しており、初心者にもオススメできる名盤だ。

とりあえずオススメのライブ音源を聞いておこう。

 

Better Days Ahead - 1989年のモントリオールでのテイク

www.youtube.com

 

不思議なようでキャッチーなところにしっかり着陸するテーマのセンス、メセニーの相変わらずの絶妙なタイム感、ラテンっぽいリズムと民族感、色彩豊かなハーモニー、良く出来ている。

Lyleのソロが非常に心地よく、この素晴らしいコード進行を見事に歌いながら駆け抜けていく。
メセニーのソロはまた打って変わってフュージョンらしいもので、コントラストを楽しめる。

最後のテーマではボーカルが加わるのだが、これもまた心地よい。

……とまあ、いろいろ語りたいことがあるのだが、今回は分析が主なので、感想についてはこの程度で終えておこう。

 

とりあえず、分析したものが以下だ。(誤りや、筆者の主観もあるでご了承ください)

  • 最終的なKeyはG♭メジャーだが、2回転調している。(BメジャーとDメジャーのキーが登場)
  • 最終的に和声はトニックに解決しない(サブドミナントマイナーに到達)が、メロディ上はしっかりとトニックに落ち着く
  • 一見複雑に見えるリハモーナイズされているポイントがいくつかある

 

では、もう少し詳しくみていこう。

 

1行目(1~4小節)

基本的にはDメジャーキー上のメロディラインと考えて問題ない。

ただし、和声的には1小節目だけBメジャーキーと考えるのが分かりやすい。

Dメジャーキーからみれば、Bメジャーキーは並行短調Bマイナーキーの同主調であり、よくある短三度間隔の転調である。

冒頭の原型はおそらく「F#m|B7|Em」というマイナーツーファイブであり、これはDメジャーキー上の「Ⅲ|Ⅵ7|Ⅱ」というメジャーキーの上で成立する一般的な進行だ。

これを代理などさせてリハモーナイズした結果、Bメジャーキーが理論的にはしっくりくるような和声になったと想像する。

F#mはドミナント化(おまけにSus化)させており、きちんと次はBMなので解決している。また、BMは逆にドミナントでなくなり、通常のメジャーセブンスコードになっている。

こうなってくると、これらはDメジャーキーの「Ⅲ|Ⅵ」よりも、Bメジャーキーの和声で「Ⅴ|Ⅰ」で捉えるのが素直だ。

他方で、メロディはBにメジャーキーのトニックはさほど感じられず、どちらかといえばDにトニックはある。

つまりトーナリティーの力強い働きにより、Dメジャーキー感が維持されたまま、異なるBメジャーキーの和声を使いつつ、それが反発せずに絶妙なハーモニーを作りだしている、という状態が冒頭部の真相であり、パット・メセニーのセンスがさっそく光っている。

 

続く「G/A」はASus4(9)で、上記の元ネタの「Em(Ⅱ)」に該当する部分をリハモーナイズしたものといえる。

ASus4は♭Ⅱではあるが、これはサブドミナントの代理コードなので、機能的には元ネタと同じ働きを持つ。

さらに、#Ⅳ7が現れるが、これはⅠ7の裏コードであり、Ⅳに解決するためのセカンダリドミナントである。

 

2行目(5~8小節)

「Ⅱ|Ⅲ|Ⅵ」とダイアトニックな進行が続いたかと思えば、「Am|D7|」からの「A♭M|D♭7」が登場する。

サイド・スリッピングと書いてあるが誤りで、ここで使われている技法は「Contiguous ii-V(コンティギュアス・ツーファイブ)」である。(どちらも同様にアウトサイド(理論を逸脱)な手法という意味では似ているが)

「Am|D7」とあからさまにツーファイブの形式を辿っており、次に解決すべき「GM」は見当たらない。Gメジャーキーの世界が展開されるのかと思えば、次に来るのは「A♭|D♭7|G♭」という元のツーファイブを♭させたもので、G♭に明確に解決しており、メロディラインも相まってG♭メジャーキーに転調している。

このように元のツーファイブをその形式のまま半音ずらすものがContiguous ii-Vであり、スタンダードにもよくみられるものだ。

 

3行目(9~12小節)

この辺りはセカンダリドミナントが連続する展開で、よくあるもので難しさはない。

 

 

4行目(13~16小節)


前半はサブドミナントサブドミナントマイナーを繰り返している一般的な流れで、注目すべきは後半の「D♭m7|Cm7(♭5)|D♭/C♭」の方だ。

#Ⅳm(♭5)はⅠ裏(トライトーン)でトニックの代理だが、このハーフディミニッシュコードは長三度下のドミナントの代理の機能を持つ。

つまり、具体的にはA♭7の代理なので、D♭に解決するセカンダリドミナント

では「D♭m7(Ⅴm)」という非ダイアトニックコードは何なんだということだが、#ⅣがⅠの裏(代理)なので、仮にここが#ⅣでなくてⅠ7だったと仮定すれば、ここは「Ⅴm|Ⅰ7|Ⅳ」の形式となるのでスッキリする。

これが実際にはⅤに解決するように変わり、さらにそこにアプローチするドミナントがⅤに解決するためのセカンダリドミナント(実際には代理)に変わり、結果Ⅴmが残っている状態である。(機能的にはサブドミナント代理)

 

5行目(17~20小節)

このセクションではF#のルートを固定して停滞させつつも、内声を変えていっている。

最後のF#sus(#5,♭9)は機能的にはサブドミナントマイナーであるものの(多分)Susでは珍しいテンションによって、絶妙な響きとなっている。

 

 

6・7行目(21~29小節)


終り方にはカラーが明確で、Ⅴからのサブドミナントマイナー

非常にジャズ的な動きで、和声的にはトニックに解決していないものの、その上のメロディラインではⅠがしっかりとサウンドしており、トーナリティー上はトニックに解決しているのがポイントである。

 

和声にこわだりたくばメロディを目立たせよ

さて、和声に限定して分析してみたが、そもそも本作はメロディラインが個性的で凝っており、それでいてキャッチーである。

ゆえに和声もこだわることができ、そうしてもまったくメロディはキャッチーさをキープできるのだ。

うむり、大切だ…。