アルバムレビュー Rainbow / Rising(虹を翔る覇者)

リッチー・ブラックモア(Gt)、コージー・パウエル(Dr)、ロニー・ジェイムス・ディオ(Vo)というハードロックにおける伝説の3プレイヤーが中心となって構成された時代のRainbow、その2ndにして最高傑作アルバムが『Rising(虹を翔る覇者)』である。

HR/HMの歴史に燦然と輝く名盤であるが、HR/HMの代表的名盤のなかでは意外と目立たないが、それはこの高級感ゆえのことだろう。

ところで、この編成は「三頭政治」とも言われ、非常に個性的なカラーのグルーヴとサウンドを生み出した。

他のメンバーはジミー・ベイン(Bass)とトニー・カレイ(Key)であり、この一作で解雇されたもののかなり良い仕事をしている。
ハードロックの図式に則りながらも、中世ローマかなにかの魔女狩りが行われていそうな呪術的でダークファンタジーな世界観がサウンドとして表現されている。
これは、リッチーがDeep Purple時代から挑んできたハードロックとクラシックの融合の完成系でなかろうか。

 

Rising (1976)

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  1. Tarot Woman
  2. Run with the Wolf
  3. Starstruck
  4. Do You Close Your Eyes
  5. Stargazer
  6. A Light in the Black

 

『Rising』はHR/HMが到達した一つの頂点であり、特に後のヘヴィメタルサウンドにとって重要な影響を与えている。
余談だが、よく「HR/HM」と呼ばれるのは、HR(ハードロック)とヘヴィメタル(HM)の区別が難しいためである。
ハードロックに比べてヘヴィメタルはギターが2人の編成であることが多いこと、クラシックの要素が増え、ブルースの要素が減っていることなどが分かりやすい特徴ではあるものの、「どこから?」という区別に絶対のルールはない。
MetallicaやSlayerになってくると完全にヘヴィメタルであってハードロックではありえないと思えるが、RainbowやBlack Sabbathなんかはそんなにきっぱり分類できるものでない。
本作はハードロックがヘヴィメタルへと移り変わっていく、その転換点の作品であり、ここで示されたテーゼがヘヴィメタルというムーブメントに帰結していったのだと、その後の流れをみると思えてくる。

収録曲を見ていくと、上記の観点で重要な革新的名曲は「Tarot Woman」「Stargazer」「A Light in the Black」であり、いずれもハードロックとクラシックの融合という課題に立ち向かっている。
その間でバランスを整えるように、「Run with the Wolf」「Starstruck」「Do You Close Your Eyes」というアメリカのビルボードチャートでも通用しそうなキャッチーなハードロックナンバーが並ぶ。

  • Tarot Woman

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一般的にはRainbowといえば他の代表曲が挙がるだろうが、個人的にRainbow最強の名曲であり、ハードロックの名曲TOP10には必ず入る。
シンセによるイントロでダークファンタジーの世界観に引き込まれ、刻まれるギターのリズムと異国的なシンセの絡みが徐々に盛り立てる展開ですでに期待MAX。
その雰囲気のままミドルテンポのクールなリフが参入し、異国的シンセが絡みつつ、Dio絶唱というに相応しいボーカルが乗っかる。
Aメロ~Bメロ~サビのすべてのメロディの選択が過不足のないまさに”完璧”であり、ハードロックなAメロ、スイートなポップセンスの光るBメロ、クラシカルなサビを違和感なく繋ぎとめ融合している。

 

  • A Light in the Black

 

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クラシカルなギターリフ、ダークな歌メロとコード、それらをひっさげ、どこか冷めたようなグルーヴで疾走するのがたまらないスピードチューン。
スピードチューンながら意外と8分以上もある長さでコンパクトでなく、冷めた温度感で前述の感じで進行していくのだが、中盤の間奏が非常にクール。
ディープパープルを思い起こさせるシンセソロ~メタルの定番のようなユニゾン~ブルージーなギターソロ~フレーズがクラシカルになっていくのとともにKeyも加わりバンドアンサンブルとなり、リフに戻る。
ターンアラウンドでまったく同じフィルとキメが入るのが効果的で、この間奏はひたすらトリップさせられる。

 

 

久しぶりに聞いてみるとこのサウンドは本当に凄い。
ハードロックは本作の影響もあってクラシック的になっていき、ヘヴィメタルとして脱ブルースされたジャンルへと変容していく。
ヘヴィメタルはそれはそれで素晴らしいのだが、結局はヘヴィメタルもこれ以上進化できなくなり頭うちとなっているように見える。
それはヘヴィメタルがクラシック化し、ブルースの持つ絶妙なグルーヴとフィールを失い、記号論的な解釈に閉じ込められたからであるとみている。
他方で本作は、ヘヴィメタル的なロックとクラシックの融合と同時に、ブルースを基調としたロックンロールのグルーヴをどちらも持っているので、絶妙なバランスの素晴らしいサウンドとなっているのだ。
もし、ロックの進化の過程でもっとブルースを失わなかったら、今ごろはどうなっていただろうか?
こんなふうにロックの歴史の進化についてのifを考えたくなってしまう、素晴らしい名盤だ。