しかしマニアックでないどころか、プログレ五大に追従する大御所の紹介だ。(プログレ自体がマニアックというツッコミはなし)
英国のシンフォニックロックの雄『Renaissance』について扱う。
Renaissanceとの出会いはそれはそれは衝撃的だった。
「幻想的で異国的で壮大で美しく、それでいてキャッチーなバンドがいないだろうか?」と妄想していた理想を叶えるものだったからだ。
当時はファンタジックなノベルゲームやライトノベルにハマっていた高校生だったので、本当に好みのとおりのものが見つかったと思った。
思い出話はそこそこに、Renaissanceについて解説していこう。
Renaissanceは1969年、元YARDBIRDSのキース・レルフ(Vo)らを中心に英国で結成された。
メンバーを交代し、全盛期メンバーはアニー・ハズラム(Vo)、ジョン・タウト(Key)、ジョン・キャンプ(Bass)、テレンス・サリヴァン(Dr)、ロブ・ヘンドリー(Gt)の構成と思っている。
トラッド・フォーク、そしてロックにクラシックを融合し、さらに他のライバルのプログレの要素も取り入れたような作風。
とりわけ、ジョン・タウトのクラシカルなピアニズムとアニーのたおやかなボーカルが齎す異国ファンタジー感は絶品であり、シンフォニックロック(プログレのサブジャンル)の金字塔と呼べるほどの領域までたどり着くことになる。
まずはRenaissanceのデビューアルバム『Renaissance』(1969) 。
Renaissance / Renaissance(1969)
King Crimsonの宮殿のリリースと同じ年である。
1969といえばロックの最初の黎明期の終りにさしかかった頃合いであり、例えば以下のようなヒットソングがあった。
Get Back (Remastered 2009) - YouTube
I Heard It Through The Grapevine - YouTube
The Rolling Stones - Honky Tonk Women (Official Lyric Video) - YouTube
上記のように悪くないのも多く、充分に申し分ないといえばない。
しかし、同じ1969年発売のRenaissanceのデビューアルバムからおひとつきいてみよう。
- Kings And Queeens
ご覧の通り、異次元といわざるを得ないだろう。(同じ1969年に、これに負けないほど異次元なKing Crimsonはおいておこう)
クラシックとロックの融合、その狼煙をあげるかの如きイントロにまずは酔いしれる。バロックなフレーズをユニゾンで奏でられ、美しくもCool。
すぐさま乾いた音造りのギターをフィーチャーし、エスニックで荒廃とした展開に変わっていく。
荒廃としたジャケット通りのイメージの世界観を、印象的なリフとともに行進していくのだ。
サビでは、後のルネッサンスお得意の穏やかピアノバッキングが登場し、エスニックな雰囲気は維持したままキャッチーに魅せてくる。(まだいささか弱いが)
デビュー作ゆえ展開はまだまだ粗削りだが、その実験性と意欲には頭が下がるばかりだ。
勿論、すでに『Pet Sounds / The Beach Boys』(1966)だとか『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band / Beatles』(1967)といった、ロックの実験的にして革命的な傑作は登場している時代。
※こんな知ってて当たり前の名盤はこのブログではいちいち取り上げません(笑)
だが、Renaissanceが行っているのは、そういったロックの自然な延長線上にあるものとはさらに別な、クロスオーバーな試みである。
1st~2ndはまだ実験段階といった様相で、Renaissanceの完成は3rdから。
Prologue(1972)
Renaissance最初の名盤であり、ついに完成された3rd。
バラエティに富んでいてリスナーを飽きさせない一方、全体の統一感がしっかりしており、以後に比べると人間味が控えめ(印象派というほどではない)で、このサウンドのRenaissanceが一番好きな方もいるのではないだろうか。
テンションぶち上げな『Prologue』、少しエキゾチックなフォーク『Kiev』、海辺の美しさを情景描画したような『Sounds of the Sea』(畳みかけてくるサビの作り方は1stの『Island』のアイデアをさらに高次元に推し進めたものにも思える)、夢見心地な『Bound for Infinity』などを筆頭に佳作目白押し。
- Prologue
- Kiev
- Sounds of the Sea
- Spare Some Love
- Bound for Infinity
- Rajah Khan
- Prologue
表題曲にして初期Renaissanceの代表曲のひとつ。
ショパンの革命をオマージュしたイントロで始まるのはなかなか大胆。
プログレ定番の進行のリフを刻み、クールなグルーヴを魅せてくる。
アニーのスキャットだけで作っていくテーマは壮大であり、前述のグルーヴィーな感じとの相性は絶妙であり、美しさとクールさを両立した素晴らしいバランス感覚で出来ている名曲だ。
燃ゆる灰 Ashes are Burning(1973)
4th。プログレを代表する超名盤と評される。
志向のオープニング『Can You Understand』、Renaissance流の異国バラードが『Let It Grow』『On the Frontie』『Carpet of the Sun』と続き、大人気の名曲『Ashes Are Burning』でエンディングへと至る。
前作とくらべて人間的な暖かみのある作風で、明るさをより前面に押し出しており、それでいてクラシックとの融合も充分に行われている。
- Can You Understand
- Let It Grow
- On the Frontier
- Carpet of the Sun
- At the Harbour
- Ashes Are Burning
- Can You Understand
これぞRenaissanceといいたくなるような美しい序盤は、明晰になにかの像を描くようなものでなく、ゆえに何が起こるのだろうかという期待を呼び起こし、ヒューマンドラマは存在しないのに非常にドラマティックに心を打つ。
続く中盤は、トラッドフォーク全開で素朴なアニーの歌声が冴えわたり、異国の街並みが想起される展開に至る。
終盤は再びイントロの美しい展開に移行していきフィナーレを迎える。
このような贅沢な展開は、このナンバーだけで抜群の満足感を与えてくれ、買って良かったと思わさせてくるキラーチューンである。
運命のカード Turn of the Cards(1974)
5th。前作と方針はさほど変わらないまま、よりオーケストレーションが導入された作品。
名作度としては前作に譲ると思われるが、しかし『Running Hard』が本作には収録されている。それだけでも買うべきだ。
また、『Mother Russia』は後の大作のプロトタイプに思えるので注目。
1. Running Hard
2. I Think of You
3. Things I Don't Understand
4. Black Flame
5. Cold Is Being
6. Mother Russia
- Running Hard
私見ではあるが、Renaissanceの最高傑作のひとつと確信している。
わたしのRenaissanceとの出会いがこれだった。
信じられなかった。
幼少のころから童話、ライトノベルなどを通して夢見ていた異国ファンタジー。
それが目前に顕現されたのである。夢が現世に降臨したのだ。
世界観を持ったイントロはややダークで、徐々にバンドやオーケストレーションが足されていき、メジャーに転調して明るい世界が開けてくる様は圧巻。
タイトルの通り"Runing"しているリフとリズム隊に、アニーのファンタジー世界の田舎娘のようなボーカルが加わり、物語が語られていく。
怒涛の変拍子で作られたBセクションを経由し、コーラスによるサビに突入する箇所は高揚感抜群だ。
シェヘラザード夜話 Scheherazade and Other Stories(1975)
6th。本作を最高傑作に推す声もあり、この完成度を見れば頷ける。
これまでのRenaissanceの進化を辿ったうえで、本来やりたかったことに帰ったように思える。
印象派的な面が強くなり、現実的なヒューマンドラマからかなり距離が出来きたように思われ、人間的暖かみは薄れたものの、童話的な壮大さが抜群になっている。
地味だがイチオシの『Trip To The Fair』、大人気曲『Ocean Gypsy』、大作『Song Of Scheherazade』など曲数が少ないながらも、ムチャクチャ良い。
- Trip To The Fair
- The Vultures Fly High
- Ocean Gypsy
- Song Of Scheherazade
- Trip To The Fair
クラシカル&ダークに疾走するイントロは時折明るさも垣間見える。
過去系で語られるような落ち着いたボーカル、中盤のパレードのような展開、大団円を迎えるようなエンディング、キャッチーさやフックは控えめなため地味で一般受けしないだろうが、ゆえにムダのない構築美と世界観が展開されており素晴らしい。
タイトルは「フェアへの旅路」とでも訳せばよいのだろうか?
イメージ的には怪異も存在するダークファンタジー的世界観、歌詞を解読すると、どちらかという現実的な異国で幼子がフェアに旅するが、その不思議さに怪異をイメージさせられて怖くなってしまうと言う、誰にでも幼い頃はあったファンタジー願望のようなものが描かれており、そりゃわたしは好きだろこんなの。
リスナーは夢か現か?希望か絶望か?なにもかもが曖昧にされ、このアルバムへの切符を手にしてゲートを潜らせれることになる。
そして異国への旅路へと向かう。
Novella(1976)
7th。これもまた名盤なんだよなあ。(全盛期Renaissanceはヤバすぎて名盤しかないのだが)
トラッドは控えめとなり、よりクラシカルに大作志向になっている。
- Can You Hear Me?
- Sisters
- Midas Man
- Captive Heart
- Touching Once (Is So Hard to Keep)
- Touching Once (Is So Hard to Keep)
超名曲。Renaissance節全開。
クラシカルに童話じみたAメロ、中盤のお得意の進行のリフパターンによるプログレッシブな展開からの合唱~静寂~ダーク~贅沢な展開からの、ロングトーンにプログレッシブなバッキングを重ねていくラスサビの壮大さ。
天才の一言。
A Song for All Seasons(1978)
8thアルバム。こちらも最高傑作として有力と思う。
前作からさらに豪華になったオーケストレーションが最強で、タイトルの通り四季をイメージさせる色彩感覚に満ちている。
また、名曲『Northern Lights』は人気美少女ゲームAirのアニメ版ED『Farewell Song』のAメロに影響を与えていると思うのだが、おそらく人類でこのわたししか気が付いていない。
- Opening Out
- Day of the Dreamer
- Closer Than Yesterday
- Kindness (At the End)
- Back Home Once Again
- She Is Love
- Northern Lights
- Song for All Seasons
- Day of the Dreamer
化け物。こんなの勝てません。
クールでプログレッシブなバッキングリズムにキャッチーで素朴なアニーの歌声が乗る。さらに、抜群のオーケストラアレンジの上手さが炸裂し、豪華絢爛に彩る。
その後の構築美の凄さはみてくれとしか、いいようがないよもう。
やっぱこういうストリングスは四季感あるなあ。
さて、ここまでみてきた作品はすべて70年代の作品である。
この記事を書いている2023年はそこから、53年もの年が流れているわけだがRenaissanceの足元に及ぶバンドがどのくらいいるだろうか?
これほどの凄まじい内容を継承できているだろうか?
出来ていない。
単純な本能に根差したウケねらいの商業主義がはびこっている。
ゆゆしき問題であり、わたしはそのような問題に楔を打ち込みたいわけだ。