黒本Ⅰ収録のスタンダード『Cantaloupe Island』を取り上げてみたい。
巨匠Herbie Hancockに作曲で、ブルースっぽいようなそうでないような、ブルースをモードジャズ化したようなモダンな作品である。
同氏の『Watermelon Man』にもかなり類似しており、そのマイナー版という雰囲気だ。
限定された素材だけで(たぶん)当時としては新しいことをやっている革命的な構造を持っており、さすがの天才性に頷ける。
- ノーマルな分析(Key:Fm)
普通にFmがトニック感があるのでFmとして捉えるのがノーマルだろう。
このうえで以下のようにスケール/モードを想定してアドリブを展開するのがよさそう。
Fm7: F Dorian
D♭7: D♭ Lydian ♭7th
Dm: D Dorian
ところが、終盤に登場するDm(文献によってはDm7)がどのようにとらえてよいかやっかいなコードである。
構成音的にⅠMajorに近く、絶妙な響きを持っている。Ⅰ(Fm7)になんとなく着地したがっているような響きに思えなくもない。
- Cmでとらえなおした分析(Key:Cm)
実践的には役に立たないがこのようにとらえると和声的にはしっくりくる。
Fmキーだとなんだこれ?だった和声が、別のKeyで捉えるとスマートにとらえなおせるという事実は面白い発見である。
- 名演 Cantaloupe Island(Live, 1990)
Herbie Hancock, Pat Metheny, Jack Dejohnette, Dave Hollandという泣く子も黙るほどの最高峰の豪華編成。
パットメセニーとディジョネットが一緒にデパートで買ったペアルックのシャツを着ている(妄想)。
特にハービーのコンテンポラリーに片足をつっこんでいそうなアドリブが素晴らしい。
スペースをしっかり確保しつつ、エモく斬新なフレージングの羅列で難解にもみえるが、微かに展開が映し出されるようなバランス感覚には完敗だ。
タイム、ニュアンス、ハーモニー、フレージング、発想、展開力、すべてが鬼。
それを引き継ぐメセニーは、明確にモティーフを展開し分かりやすく展開してくれており、こちらも本当に素晴らしくハービーにも負けず劣らずだ。
キャッチーさ、モーダルさ、それらを適切に即席で組み合わせる手際のよさ、本当になんなんだこの次元…。