メジャーブルースのコード進行について

本稿ではメジャーブルースのコード進行について、素人ながら考察してみたい。

ブルースとは何ぞや?という膨大な話はここではせず、あくまでメジャーブルースのコード進行にだけフォーカスしたいのだが、次のことくらいはおさえておきたい。

  • ブルースはそれまでの白人音楽理論感では考えられないような構造を持つ
  • (奴隷階級だった黒人たちの価値観に依拠したような)喜なのか哀なのか断定できないような調性感(メジャーなのか?マイナーなのか?あるいはメジャーの下部構造にマイナーの上部構造を同時に持ったり)
  • 通常想定されるようなドミナントモーションによる作曲と違い、ドミナントを解決しなかったりする(しかも本当にドミナントなのかも怪しいような曖昧さで、7thが鳴っていなかったりもする)

その辺りは、崇拝する菊池先生の数々の名著に詳しい。(さらにブルースだけに絞った専門書もあるようだ)

www.kinokuniya.co.jp

 

メジャーブルースの基本的な進行は「12小節ブルース」などとも呼ばれ、基本系はいわゆるスリーコード(Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ)によって構成されている。

まずは最も基本的な「12小節ブルース」の進行は以下の通りである。

(なお、以後登場するコード譜のKeyは様々なのでディグリーを参照のうえ、普遍化して理解いただきたい)

 

  • メジャーブルース進行(Key: C Major)

 

ⅠやⅣがドミナント7となっているのが特徴であり、これはセカンダリドミナントではない。というかⅤ7も通常のトーナリティーにおけるドミナント7ではないと思われる(要確認)。

2小節目は実際にはⅣ7となっていることが多く、最初の4小節をすべてⅠ7にするとより停滞感が演出できる。

5~6小節目のⅣ7ではようやく動きが生まれるように感じられ、9~11小節目の流れは白人世界では考えられない「Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ」という動きである。

白人社会的にはそんなことをするならば普通「Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ」にするだろうと、理論的にはそうであろうと、受け入れがたかったに違いない。

最後の小節では繰り返すならばターンアラウンドとしてⅤにしておくのが分かりやすい。

 

オールドブルースのスタイルが上記を基礎とするならば、

モダンブルースというかジャズ界ではブルースはどのように進化し享受されているかを見ていきたい。

まずは最もシンプルなジャズブルースと思われるDuke Ellingtonのこちらをみてみよう。

  • C Jam Bluse (Key: C Major)

youtu.be

 

前半はブルース進行に準拠しているが、後半に白人の調性の世界が融合している。

クライマックスである9~10小節をダイアトニックのⅡⅤにし、そのうえでその前の8小節をⅡにアプローチするセカンダリドミナント(Ⅵ7)に置き換えている。(またターンアラウンドである12小節も同様)

 

続いてチャーリー・パーカーのブルースを見てみよう。

  • Billie's Bounce (Key: F Major)

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こちらもKeyは違うが『C Jam Bluse』とほぼ同様の(ブルース基本系に対する)リハモが行われている。

9小節目を通常のⅡに換え、さらにそこにアプローチするためにⅥ7を仕掛け、それをさらにⅡⅤ(Key:G)化している。

メロディが印象的なキメで出来ており、パーカーの天才性が伺える素晴らしい名曲だ。

 

 

ここまでみてきたように、スイング期~ビバップ期のジャズブルースの基本的な手法は、オールドブルースの無秩序な世界観に、白人のクラシック上がりのトーナリティーの世界観が融合するものだといえる。

さらに、モダン期ではどんな発展があるのかの一例も少しみていこう。

 

ジョン・コルトレーン作のブルースをみてみよう。

  • Bessie's Blues (Key: E♭ Major)

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コルトレーンのこのブルースはコード進行はオールドブルースのままである。

代わりにメロディラインが複雑で凝っており、骨格をシンプルに固定したうえでその上でどれだけ発展できるかを模索するコルトレーンらしい試みと、勝手に思っている。
(このようなコルトレーンの考え方についてはフィリップ・ストレンジ氏の著作が詳しい)

 

セロニアス・モンクのブルースはどうなっているだろうか。

  • Blue Monk (Key: B♭ Major)

 

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Ⅰがドミナントになっていないのが特徴的で、加えて6小節目にはパッシングディミッシュがある。

10小節はⅤをそのまま継続しており、基本系以上にシンプルになっているかもしれない。

これだけシンプルなコード進行であるにも関わらず、メロディラインはすぐにモンクと分かるコミカルなカラーを持っており、抜群のセンスを感じさせる。

 

 

一般人が”聞けるようになる”ための登竜門としてブルースはよい薬でもある。

なぜならば、ブルースはコード進行とそのうえで使えるスケールが限定的になるので、プレイヤーや作品ごとの違いをその限定的条件のなかで、聞き分けられないと楽しめないからだ。

必然的にタイムとフィール(ニュアンス)と捉えるように訓練されるのである。(一般人が弱いのがそこ)

 

また、現代のポピュラージャンルは、ほとんどブルースの影響化にあるにも関わらず、ブルースに思いを馳せる人は非常に少ない。

そのことへの感謝の念も抱きつつ、たまにはブルースに思いを馳せる…。

そんな機会も必要だろう。

 

 

アーティスト紹介 Renaissance

今回はKensoに引き続き、またもやプログレ

しかしマニアックでないどころか、プログレ五大に追従する大御所の紹介だ。(プログレ自体がマニアックというツッコミはなし)

英国のシンフォニックロックの雄『Renaissance』について扱う。

 

Renaissanceとの出会いはそれはそれは衝撃的だった。

「幻想的で異国的で壮大で美しく、それでいてキャッチーなバンドがいないだろうか?」と妄想していた理想を叶えるものだったからだ。

当時はファンタジックなノベルゲームやライトノベルにハマっていた高校生だったので、本当に好みのとおりのものが見つかったと思った。

思い出話はそこそこに、Renaissanceについて解説していこう。

 

Renaissanceは1969年、元YARDBIRDSのキース・レルフ(Vo)らを中心に英国で結成された。

メンバーを交代し、全盛期メンバーはアニー・ハズラム(Vo)、ジョン・タウト(Key)、ジョン・キャンプ(Bass)、テレンス・サリヴァン(Dr)、ロブ・ヘンドリー(Gt)の構成と思っている。

トラッド・フォーク、そしてロックにクラシックを融合し、さらに他のライバルのプログレの要素も取り入れたような作風。

とりわけ、ジョン・タウトのクラシカルなピアニズムとアニーのたおやかなボーカルが齎す異国ファンタジー感は絶品であり、シンフォニックロック(プログレサブジャンル)の金字塔と呼べるほどの領域までたどり着くことになる。

 

まずはRenaissanceのデビューアルバム『Renaissance』(1969) 。

Renaissance / Renaissance(1969)

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King Crimsonの宮殿のリリースと同じ年である。

1969といえばロックの最初の黎明期の終りにさしかかった頃合いであり、例えば以下のようなヒットソングがあった。

Get Back (Remastered 2009) - YouTube

I Heard It Through The Grapevine - YouTube

The Rolling Stones - Honky Tonk Women (Official Lyric Video) - YouTube

 

上記のように悪くないのも多く、充分に申し分ないといえばない。

しかし、同じ1969年発売のRenaissanceのデビューアルバムからおひとつきいてみよう。

  • Kings And Queeens

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ご覧の通り、異次元といわざるを得ないだろう。(同じ1969年に、これに負けないほど異次元なKing Crimsonはおいておこう)

クラシックとロックの融合、その狼煙をあげるかの如きイントロにまずは酔いしれる。バロックなフレーズをユニゾンで奏でられ、美しくもCool。

すぐさま乾いた音造りのギターをフィーチャーし、エスニックで荒廃とした展開に変わっていく。

荒廃としたジャケット通りのイメージの世界観を、印象的なリフとともに行進していくのだ。

サビでは、後のルネッサンスお得意の穏やかピアノバッキングが登場し、エスニックな雰囲気は維持したままキャッチーに魅せてくる。(まだいささか弱いが)

デビュー作ゆえ展開はまだまだ粗削りだが、その実験性と意欲には頭が下がるばかりだ。

 

勿論、すでに『Pet Sounds / The Beach Boys』(1966)だとか『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band / Beatles』(1967)といった、ロックの実験的にして革命的な傑作は登場している時代。
※こんな知ってて当たり前の名盤はこのブログではいちいち取り上げません(笑)

だが、Renaissanceが行っているのは、そういったロックの自然な延長線上にあるものとはさらに別な、クロスオーバーな試みである。

1st~2ndはまだ実験段階といった様相で、Renaissanceの完成は3rdから。

 

Prologue(1972)

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Renaissance最初の名盤であり、ついに完成された3rd。

バラエティに富んでいてリスナーを飽きさせない一方、全体の統一感がしっかりしており、以後に比べると人間味が控えめ(印象派というほどではない)で、このサウンドのRenaissanceが一番好きな方もいるのではないだろうか。

テンションぶち上げな『Prologue』、少しエキゾチックなフォーク『Kiev』、海辺の美しさを情景描画したような『Sounds of the Sea』(畳みかけてくるサビの作り方は1stの『Island』のアイデアをさらに高次元に推し進めたものにも思える)、夢見心地な『Bound for Infinity』などを筆頭に佳作目白押し。

  1. Prologue
  2. Kiev
  3. Sounds of the Sea
  4. Spare Some Love
  5. Bound for Infinity
  6. Rajah Khan
  • Prologue

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表題曲にして初期Renaissanceの代表曲のひとつ。

ショパンの革命をオマージュしたイントロで始まるのはなかなか大胆。

プログレ定番の進行のリフを刻み、クールなグルーヴを魅せてくる。

アニーのスキャットだけで作っていくテーマは壮大であり、前述のグルーヴィーな感じとの相性は絶妙であり、美しさとクールさを両立した素晴らしいバランス感覚で出来ている名曲だ。

 

燃ゆる灰 Ashes are Burning(1973)

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4th。プログレを代表する超名盤と評される。

志向のオープニング『Can You Understand』、Renaissance流の異国バラードが『Let It Grow』『On the Frontie』『Carpet of the Sun』と続き、大人気の名曲『Ashes Are Burning』でエンディングへと至る。

前作とくらべて人間的な暖かみのある作風で、明るさをより前面に押し出しており、それでいてクラシックとの融合も充分に行われている。

 

  1. Can You Understand
  2. Let It Grow
  3. On the Frontier
  4. Carpet of the Sun
  5. At the Harbour
  6. Ashes Are Burning

 

  • Can You Understand

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これぞRenaissanceといいたくなるような美しい序盤は、明晰になにかの像を描くようなものでなく、ゆえに何が起こるのだろうかという期待を呼び起こし、ヒューマンドラマは存在しないのに非常にドラマティックに心を打つ。

続く中盤は、トラッドフォーク全開で素朴なアニーの歌声が冴えわたり、異国の街並みが想起される展開に至る。

終盤は再びイントロの美しい展開に移行していきフィナーレを迎える。

このような贅沢な展開は、このナンバーだけで抜群の満足感を与えてくれ、買って良かったと思わさせてくるキラーチューンである。

 

運命のカード Turn of the Cards(1974)

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5th。前作と方針はさほど変わらないまま、よりオーケストレーションが導入された作品。

名作度としては前作に譲ると思われるが、しかし『Running Hard』が本作には収録されている。それだけでも買うべきだ。

また、『Mother Russia』は後の大作のプロトタイプに思えるので注目。

 

1. Running Hard
2. I Think of You
3. Things I Don't Understand
4. Black Flame
5. Cold Is Being
6. Mother Russia

  • Running Hard

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私見ではあるが、Renaissanceの最高傑作のひとつと確信している。

わたしのRenaissanceとの出会いがこれだった。

信じられなかった。

幼少のころから童話、ライトノベルなどを通して夢見ていた異国ファンタジー

それが目前に顕現されたのである。夢が現世に降臨したのだ。

世界観を持ったイントロはややダークで、徐々にバンドやオーケストレーションが足されていき、メジャーに転調して明るい世界が開けてくる様は圧巻。

タイトルの通り"Runing"しているリフとリズム隊に、アニーのファンタジー世界の田舎娘のようなボーカルが加わり、物語が語られていく。

怒涛の変拍子で作られたBセクションを経由し、コーラスによるサビに突入する箇所は高揚感抜群だ。

 

シェヘラザード夜話 Scheherazade and Other Stories(1975)

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6th。本作を最高傑作に推す声もあり、この完成度を見れば頷ける。

これまでのRenaissanceの進化を辿ったうえで、本来やりたかったことに帰ったように思える。

印象派的な面が強くなり、現実的なヒューマンドラマからかなり距離が出来きたように思われ、人間的暖かみは薄れたものの、童話的な壮大さが抜群になっている。

地味だがイチオシの『Trip To The Fair』、大人気曲Ocean Gypsy』、大作『Song Of Scheherazade』など曲数が少ないながらも、ムチャクチャ良い。

 

  1. Trip To The Fair
  2. The Vultures Fly High
  3. Ocean Gypsy
  4. Song Of Scheherazade

 

  • Trip To The Fair

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クラシカル&ダークに疾走するイントロは時折明るさも垣間見える。

過去系で語られるような落ち着いたボーカル、中盤のパレードのような展開、大団円を迎えるようなエンディング、キャッチーさやフックは控えめなため地味で一般受けしないだろうが、ゆえにムダのない構築美と世界観が展開されており素晴らしい。

タイトルは「フェアへの旅路」とでも訳せばよいのだろうか?

イメージ的には怪異も存在するダークファンタジー的世界観、歌詞を解読すると、どちらかという現実的な異国で幼子がフェアに旅するが、その不思議さに怪異をイメージさせられて怖くなってしまうと言う、誰にでも幼い頃はあったファンタジー願望のようなものが描かれており、そりゃわたしは好きだろこんなの。

リスナーは夢か現か?希望か絶望か?なにもかもが曖昧にされ、このアルバムへの切符を手にしてゲートを潜らせれることになる。

そして異国への旅路へと向かう。

 

Novella(1976)

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7th。これもまた名盤なんだよなあ。(全盛期Renaissanceはヤバすぎて名盤しかないのだが)

トラッドは控えめとなり、よりクラシカルに大作志向になっている。

 

  1. Can You Hear Me?
  2. Sisters
  3. Midas Man
  4. Captive Heart
  5. Touching Once (Is So Hard to Keep)

 

  • Touching Once (Is So Hard to Keep)

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超名曲。Renaissance節全開。

クラシカルに童話じみたAメロ、中盤のお得意の進行のリフパターンによるプログレッシブな展開からの合唱~静寂~ダーク~贅沢な展開からの、ロングトーンプログレッシブなバッキングを重ねていくラスサビの壮大さ。

天才の一言。

 

A Song for All Seasons(1978)

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8thアルバム。こちらも最高傑作として有力と思う。

前作からさらに豪華になったオーケストレーションが最強で、タイトルの通り四季をイメージさせる色彩感覚に満ちている。

また、名曲『Northern Lights』は人気美少女ゲームAirのアニメ版ED『Farewell Song』のAメロに影響を与えていると思うのだが、おそらく人類でこのわたししか気が付いていない。

 

  1. Opening Out
  2. Day of the Dreamer
  3. Closer Than Yesterday
  4. Kindness (At the End)
  5. Back Home Once Again
  6. She Is Love
  7. Northern Lights
  8. Song for All Seasons

 

  • Day of the Dreamer

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化け物。こんなの勝てません。

クールでプログレッシブなバッキングリズムにキャッチーで素朴なアニーの歌声が乗る。さらに、抜群のオーケストラアレンジの上手さが炸裂し、豪華絢爛に彩る。

その後の構築美の凄さはみてくれとしか、いいようがないよもう。

やっぱこういうストリングスは四季感あるなあ。

 

 

さて、ここまでみてきた作品はすべて70年代の作品である。

この記事を書いている2023年はそこから、53年もの年が流れているわけだがRenaissanceの足元に及ぶバンドがどのくらいいるだろうか?

これほどの凄まじい内容を継承できているだろうか?

出来ていない。

単純な本能に根差したウケねらいの商業主義がはびこっている。

ゆゆしき問題であり、わたしはそのような問題に楔を打ち込みたいわけだ。

アーティスト紹介 Kenso

今回は日本のプログレッシブロックバンドを紹介しよう。

その名も『Kenso』。知る人ぞ知る日本的プログレの金字塔だ。

1974年にリーダーの清水義央(本業、歯科医らしい)を中心にを結成され、メジャーデビューもしている。

まぁマニアックではあるが、通なら必ず知っておくべき重要なバンドだ。

今回はKensoの初期の名盤を紹介しよう。

 

KensoⅡ(1983)

日本プログレの歴史に残る傑作中の傑作。

 

  • 空に光る

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Kensoの代表作。

どうしてこんなものが作れるのか意味不明なほどの完成度を誇っている。

イタリアンプログレの手法でもって作られていると思われるが、他方で日本的であることをしっかり打ちだされており、簡単なことではない。

民族的で神秘的でありながら、非常にキャッチーなテーマは絶品であり、テーマをフルートが追いかけていく様が心地良すぎる。

前述の通りの至高のテーマ、中盤の重層化されたギターアンサンブルの楽しさ、予想のつかない展開を繋ぐ構築美…もはやプログレの傑作のひとつといってもよいだろう。

 

  • 麻酔PartⅡ

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いきなりポリリズミックな変拍子リフが畳みかけ、リスナーは(タイトルの通り)麻酔がぶちこまれたかのごとくトリップさせられる。

プログレが陥り勝ちな、トリッキー&テクニカルなだけでは良い作品にはなりえない。

本作はそれだけでなく、非常に美しい展開が待ち受けている。

 

KensoⅢ(1985)

よりフュージョンっぽく聞こえる。普通に名作。

  • Turn To Solution

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ギターが前面に打ち出されており、キメも多くてカッコイイ。

人によってはCasiopea(和製フュージョンの王)っぽくも感じられると思う。

しかし随所にKensoならではの神秘性も潜んでおり、そこらの和製フュージョンだけでは得られないものがある。

 

SPARTA(1989)

『スパルタ』というギリシャのタイトルにも関わらず、どちらかといえば日本の古代を想起させるような作りになっている。

 

  • 美深

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個人的にKensoのなかでもトップを争う傑作。

イントロの海感全開のアコギのリフ、そこに追従してくるシンセのフレーズの民族的神秘感はもう「これぞKenso」とため息ものだ。

テーマが始まるとバンドアンサンブルにより、冷たくて深い海のイメージが追加されて極上と至る。

ギターによるメロディセンスが良く感じられ、これは王道の泣きギターぽいといえばぽいのだが、やはりサウンド構築の妙味によってありがちなものでなく、独特にして志向の高揚感を作り出している。

高揚感というならば、本作はエンディングの高揚感がKensoのなかでもトップクラスなので必聴である。

  • The Stone Of Golden Hair

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まず、いきなりのテーマのキメが最高。

ただかっこいいフレーズでキメるのでなく、抜群の和風テイストを讃えており、日本の古代の島を想起させる。

すぐさまプログレッシブにリズムが捻り、Kenso節の美しいシンセが彩る。

和風とイタリアンプログレの合間を違和感なく行き来するこのセンスがまさしくKensoだ。

歪んだギターがエキゾチックにそしてキャッチーに蠢く後半は今度はUKのような英国プログレのような質感でもあり、展開も楽しめる。

 

夢の丘(1991)

初期Kensoの到達点。こんなサウンドプログレバンドが世界にあるか?

そして、昔ジャケ買いしたのを覚えているが、とんでもなく美しいアートワーク。

サウンドがBGMのように地味になったと思う人もいるだろうが、

 

  • 心の中の古代

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Kenso節抜群でありながらサウンドが『夢の丘』してる佳作。

なんともいえないエキゾチック性の序盤は美しく、ロックを全面に押し出した中盤はカッコイイ、終盤でこれらの展開をまとめあげる構築力はさすが。

  • 謎めいた森より

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ゲームの森系のステージのBGMと言った感じで、ジャケットのイメージにも一致する。

本アルバムでももっともBGMしており大人しいが、謎めいた神秘的な雰囲気に誘ってくれるよい休憩曲。

 

いくつか駆け足でみてきたが、これらはKensoの偉大なる功績のほんの一部にすぎない。

その凄さは自身でしっかり体感して初めて理解に繋がるだろう。

結局、日本最高峰の実力がありながら、選択したジャンルのマニアックさゆえに商業的には大成功には至らなかったことが悔やまれる。

そのことを強くうけとめ、次に繋いでいかなければならない。

Kensoは、日本民族的なる要素は、充分にエキゾチックで魅力的であり、見せ方次第では現代でも通じるということを証明しているように思える。

アーティスト紹介 Jet Lag

このコーナーではアーティストを紹介していこう。

最初に取り上げるのは『Jet Lag』。ほとんどの人が知らない超マニアックな国内のバンドだ。

プログレッシブロックマニア筋からこのバンドを知ったのだが、プログレとの親和性があるのは『Floater』くらいで、実際には渋谷系ギターポップとジャンルを定義するのがよさそうである。

2000年にデビューを飾りつつも2004年で解散してしまっており、非常に残念なことだ。

藤井の小野リサのようなボサノバ風味を感じさせる透明感のある歌声、浮遊感がありつつも人間味の暖かみも感じさせるサウンドプロダクションが特徴だ。

 

Floater

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ひたすら心地よく浮遊。

全体的なサウンドは現代的でエレクトリックであり、ちょうどこのころ聞いていたPFMの新譜『La terra dell'acqua (2006)』にも通ずる。

Acceleration

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心地よいアコギとエレキのWギターリフにダウナーなボーカルが乗れば、もう渋谷系だだ。


Back of my mind

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プログレでよくある進行のリフ、結構跳ねた感じでラグタイミーな雰囲気もある。

 

Find a way

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Carpentersぽいイントロから始まり、これまで紹介してきたなかではサビが一番わかりやすく海外ポップっぽいか。

 

アルバム紹介

tower.jp

tower.jp

tower.jp

 

Jet Lagが売れなかったことはよく受け止めておくべきだろう。

もはや渋谷系の需要が薄れてしまったこと、一般に幅広く刺さるような特徴はないこと、今のようなYoutube全盛とは異なり中途半端な時期で広報が難しかったことなのが、その原因として挙げられる。

アーティスト紹介 Thy Majestie

このシリーズはこれまで超マニアックなバンドばかり紹介していたが、今回は「超」が消えて、ただのマニアックなバンドを紹介。

Thy Majestie。メタルマニアなら知る人ぞ知るイタリアのシンフォニックメタルバンドだ。

 

Hastings 1066 /Thy Majestie  (2002)

www.discogs.com

 

イタリアのシンフォニックメタルといえばRhapsody(Rhapdosy Of Fire)がまず思い当たるが、Thy Majestieのアレンジスキルは同時期のRhapsodyにも引けを取らないどころか、少なくとも初期のRhapsodyは超えていそう。

そのくらい豪華にしっかりとストリングアレンジがされているのが本作である。

それもそのはず、彼らは本作の制作にあたり弱小レーベルながら、一生懸命プレゼンして説得しもぎ取った成果らしい。(前作まではあんなにチープだったのに)

 

特によく出来ているナンバーが中盤の『The Sight of Telham Hill』である。

www.youtube.com

 

まず、ケルティックなイントロはいかにも戦いが始まりそうでワクワクさせてくる。

疾走とともにザイマジェらしいAメロとなるが、前作までのチープさは豪華なクワイアとストリングスにより克服されている。

ここまでは、メロディックでないが、まるで語り部のようで、ゆえに次の展開を想像させる物語の導入的な効果がある。

魅力的なBメロが登場し、ハーフリズムでオペラティックな展開となり、トニックに完全に解決することでリスナーを物語のクライマックスへと誘う。

歌とコードが単にトニックに解決するだけなく、その後に絶妙にシンセがオブリガードを飾り付けており、そこが絶妙な効果を持っているようにも思える。

そして続くサビが凶悪だ。

(ザイマジェお得意の)キャッチーなのかそうでないのか絶妙なバランスでできているメロディで、それゆえ普段あまり得られない感傷に浸ることができる。

サビの後半でハーフリズムで畳みかけてくるのも良い。

特にラスサビではより引っ張ってからのエンディングなので高揚感が素晴らしい。

 

解散したかどうかは確認できていないが、『始皇帝 (2012)』を最後にアルバムはリリースされておらず、なかなか厳しそうである。

しかし、充分にいくつかの可能性について提示してくれており、我々はそれを受け継ぐべきだろう。

 

 

 

 

 

スタンダード分析 St.Thomas

今回は黒本1より『St.Thomas』を分析。

「St.」セントだとかセイントだとか読むらしい。
Sonny Rollins作曲で、名盤『サキソフォン・コロッサス』(1956)に収録されている。
実際にはイングランドの伝承歌『The Lincolnshire Poacher』に基づくものがヴァージン諸島で子守唄に変容し、ロリンズの母親が歌って聞かせたものが元となっているという。
ジャズにカリプソのリズムが登場したのはおそらくこれが初めてと言われており、陽気なカリブ海の風味が全開である。

 

早速分析してみる。

非常にシンプルで学習にぴったり。

・調性に解釈の余地がなく、まぎれもなくC Major

・ほぼダイアトニックに加え、Ⅵ7というよくあるセカンダリドミナントが頻出

・黒本にはサブドミナントマイナー代理コードをインサートするアレンジが書かれている(B♭7、A♭7)

 

ソロ用は以下のパターンが掲載されていた。

・ⅡⅤはⅡを省略したり、ⅤにⅡを挿入したりはかなり自由に出来るアレンジで、ソロしやすいようにその辺りが整理されている

 

名演

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原曲。

Max Roachのドラムが印象的。そして、お手本のようなロリンズのソロ。

 

  • Michel Camilo

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現代ラテン代表格のカミロなだけあって流石。

本物のラテンフレーバーを感じさせるタイムとフィールは絶品。

 

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豪華な巨匠トリオによるもの。

高級な空気感の演出が本当に素晴らしい。

 

Joshua Redman / Brian Blade / Christian McBride / Brad Mehldau

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現代最強の面子。全員凄すぎる。

メルドーはこんな陽気な曲でも異次元を作るなあ。

 

 

スタンダード分析 Stella By Starlight(星影のステラ)

黒本スタンダードの分析を行っていく。

今回は『Stella By Starlight(星影のステラ)』。Victor Young作曲。

非常に美しく洗練された楽曲で理論的な特徴は以下にまとめられる。

・b5によるT代理で始まる

・転調はFMに一度だけと解釈

・最初のテーマでは解決されなかった「Em|A7」が、最後のテーマでは解決されるところに力強いクライマックス性を感じる(みごとなコントラスト)

・完全四度音程が目立ちステラ感がある?

 

名演

 

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言わずもがな。圧倒的なスイング感。

 

Mccoy Tyner

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なんというエキゾチックな解釈か。

マッコイらしいサウンド

 

  • Robert Glasper

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ナウいのだが浅くない。凄まじいハーモニー。